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そばとご飯との栄養比較

 そばとご飯の栄養を比べる場合の最大のポイントは、胚芽の扱いです。胚芽とは植物の種のうち、生長すると芽になる部分です。発芽に際して最も重要な役割を果たす部分のため、さまざまな栄養素が豊富に含まれ栄養価が高い部分です。

 白米(精白米)とは、玄米を精米工程(搗精 とうせい)によって精白し、糠層と胚芽を取り除いたものです(図1)。
米の胚芽は米粒の表面に食い込んだような状態で付いているため、昔のように玄米を臼に入れて杵で搗くだけでも簡単に取り除くことができます。したがって精米歩合にもよりますが、一般に食べられている白米の場合、胚芽の栄養素の大部分は削り取られています。精米歩合とは、精米の程度を、白米の玄米に対する重量の比率で表したもので、通常の白米ではおおむね92%程度。これは、玄米の表面を8%ほど削り取ったという意味です。
 

 玄ソバは、胚芽に相当する子葉部分も一緒に製粉するのが特徴です。その理由は玄ソバの構造にあり、図2のように、ソバの子葉は非常に大きく、S字状に曲がった形で、胚乳内に食い込んだように存在しています。そのため、子葉だけをあらかじめ除去してから製粉することはできません。

 人間が生きていくために外界から摂取しなければならない栄養素には、たんぱく質、脂質、炭水化物(糖質)、ビタミン、ミネラル(無機質)があります。これらを五大栄養素と呼んでいます。
そば粉と白米の五大栄養素を比較してみます。そば粉については、香り、風味、色ともにバランスのとれた二番粉を標準にします。

 たんぱく質の含量は、そば粉が10.2%であるのに対して、白米は6.1%です。もっとも、一番粉の場合はほとんどが胚乳の成分なので6%しか含まれていません。挽きぐるみにすると12%にもなります。米の場合は玄米でも7.4%ですから、そば粉のほうがはるかに多くのたんぱく質を含んでいることが分かります。

 たんぱく質の栄養価は、そのたんぱく質を構成するアミノ酸、とりわけ必須アミノ酸の種類と量によって左右されます。含まれているアミノ酸相互の比率が、人間の体の各必須アミノ酸の要求量に近いほど、たんぱく質としての栄養価が高いと評価されています。

 たんぱく質の栄養価の評価方法はいくつかありますが、一般にはアミノ酸スコアが用いられます。この評価で見てみると、白米の65に対して、そば粉は一番粉で80、二番粉が90、挽きぐるみでは92と抜群に高くなります。ちなみに、小麦粉(中力一等粉)は41で、畑の肉と呼ばれる大豆でさえ86です。

 そば粉のアミノ酸組成の最大の特徴は、必須アミノ酸のひとつであるリジンの含量が極めて多いことでです。
白米100g中のリジン含量は250mg、小麦粉で220mgです。これに対して、そば粉には白米の3倍近い700mgも含まれています(「日本食品アミノ酸組成表」による)。

 脂質の含量を比較すると、そば粉が2.7%(挽きぐるみでは3.1%)、白米は0.9%。そば粉には、白米の3倍もの脂質が含まれているわけです(そば粉のうち最も脂質含量の少ない一番粉でも1.6%であり、白米より多い)。挽きぐるみの脂質含量は、玄米や製粉する前の小麦玄穀(いずれも3.0%)に匹敵します。
 脂質については脂肪酸の組成が問題になりますが、そば粉、白米ともその特徴は、動脈硬化や肝疾患などの要因とされる飽和脂肪酸が少なく、健康のために重要な脂肪酸である不飽和脂肪酸の含量が多いことです。とくにオレイン酸とリノール酸が圧倒的に多く含まれています。そば粉には白米の3倍近くの量が含まれています。






 最近注目されている不消化成分、食物繊維の含量が多いのもそば粉の特徴のひとつで、4.4%含まれています(白米は0.5%)。そば粉の食物繊維の主成分は、フスマ(小麦を粉に挽いた後に残る皮)などに多く含まれるヘミセルロースです。

 そば粉のビタミン類といえば、まずルチンが話題になりますが、B1, B2, B6も含有量の多いビタミンです。白米と比べると、脚気が欠乏症として知られるB1は約4倍、口角炎の予防や疲労回復に効果のあるB2は5倍、乳児期や妊娠期にとくに重要なB6は3倍も含まれています。B1は糖質をエネルギーに変えるために不可欠なビタミンでもあります。また、そば粉は、体の老化や成人病を防ぐビタミンであるEの含有量も多く、これは胚芽を除去してしまっている白米にはほとんど含まれていません。

 ちなみに、白米食が普及した江戸では、「江戸わずらい」と呼ばれた脚気が地域の特殊病でしたが、その江戸でB1を豊富に含むそばが大流行したことと関係があるのではないか、という指摘もあります。B1は、そば粉100gで成人の1日当たりの必要量の40%近くをまかなえます。

 ミネラルを豊富に含むのもそば粉の特徴です。主要なミネラルはカリウム、リン、マグネシウムで、いずれも白米の4倍以上の含有量です。鉄、亜鉛、銅も2倍以上含んでいます。

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