薬味の効用

 薬味には、料埋の味を引き締めて風味を増し、食欲を増進させる効果があります。
わが国では、奈良時代から「からみ」や「くさみ」として、ショウガ、ノビル、サンショウ、カラシなどの香辛料が使われてきた歴史があり、そば、うどんといった麺類の薬味にも、さまざまなものが用いられています。

 ちなみに、もともと薬味の「薬」と「味」は別々の意味を持っていました。「薬」は読んで字のごとく、くすり、毒消し、滋養などを表わし、「味」には、あじ、旨み、食欲を起こす、などの意味があります。
 薬味という言葉は、この二つの文字を合わせることで、調味の妙を表現したものと考えられています。「加薬」とか「役味」という言葉も、「薬」を加える(「加薬味」ともいう)、役に立つ「味」といった意味合いから生まれたとされています。


・葱(ネギ)
 ネギは、全国で栽培されているため品種が多いが、白い部分の多い根深ネギ(白ネギ)と、柔らかい緑色の葉が多い葉ネギとに大別されます。関東は千住ネギに代表される根深ネギ、関西は葉ネギがよく使われています。
関西では、大阪のなんばねぎ、京都の九条ネギが有名です。
当店では伝統京野菜である九条ネギを使用しています。

 栄養的には、葉ネギのほうが根深ネギより優れています。糖質を除くすべての成分が根深ネギよりも多く、とくにミネラル、ビタミンについての差は大きいです。
ビタミンCは約4倍、Aは100倍以上にもなります。
ワケギや万能ネギも葉ネギと同様、AとCが豊富に含まれています。
一般に、根深ネギの軟白部には、アリシンなどの硫化アリルが含まれています。
ネギ特有の刺激臭は、この硫化アリルによるもので、ニンニクの臭いと同じ成分です。

・大根
 当店では冬季の「おろしそば」に、京の伝統野菜「鷹峯の辛味大根」を使用したメニューを提供いたしております。
又、夏季の「おろしそば」では、京都市北区岩倉で無農薬栽培した辛味大根のメニューを皆様にお届けいたしております。(夏と冬では大根の種類が違います)

 大根の根には、100g中約12mgのビタミンCが含まれており、皮に近い部分ほど含有量が多くなります。
そばには、毛細血管の働きを強化する働きのあるルチンが含まれていますが、ルチンは、ビタミンCと同時に摂ると効果が増します。
したがって、大根おろしをそばの薬味にすることは、ビタミンCの摂取だけでなく、そばならではの薬効を高める上でも合理的な食べ方です。
 よく知られているように、大根の根には、でんぷん分解酵素のジアスターゼ(アミラーゼ)が豊富に含まれています。
ビタミンCやジアスターゼは熱に弱いという欠点がありますが、薬味の場合は、大根おろしとして生で食べるため、問題はありません。

山葵
 わが国特有の香辛料で、もり、ざるなどの冷たいそばの薬味として欠かせない薬味のひとつです。ねぎ、大根とともに 「三色の薬味」とも呼ばれています。
 山葵は意外とビタミンCの含量が多く、根深ネギの6倍以上で葉ネギよりも多いので、少量でもネギ以上の効果が期待できます。
 山葵の辛味は、シニグリンという成分が酵素の働きで分解されてできるアリルカラシ油によるもので、山葵の細胞を破壊するほど辛味が増します。
特有の香気は、ワサオールという精油成分によります。
山葵の辛味や香気は加熱すると失われてゆきます。

・生姜
 薬味としては、根生姜をすりおろして使います。
ミネラル、ビタミンをわずかに含むだけで、栄養価はほとんど期待できませんが、昔から、さまざまな薬効が知られています。
独特の爽やかな辛味は、ショウガオールとジングロン、香りはシネオールなどの精油成分によるもので、薬効は、これら辛味と香りの成分にあります。
消化酵素の分泌を高めて消化吸収をよくする働きがありますので、食欲のない時や胃腸の調子の悪い時などに用いると、より効果的です。
 これらの成分には消炎・保温作用があります。
肩凝りや神経痛の湿布薬として用いられるほどで、疲労回復の効果もあります。
のどが痛む、寒気がするといった風邪の初期症状に生姜湯が効くというのは、体を温めて新陳代謝を活発にし、発汗を促して熱を下げる効果があるからです。
酸化しやすいのですり置きはできません。

・柚子
 柚子は、皮をへぎ取ったり(へぎ柚子)、千切り(針柚子)にして薬味として使用しますが、ビタミンCは皮に多く、レモンの1.5倍も含まれています。
 香りの精油成分には、神経をリラックスさせる働きがあり、天ぷらそば・うどんなどの油っぱさや油臭さを抑える効果も大きいです。
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