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そば湯のすすめ


 そば湯を飲む風習は、まず信州で始まり、それが江戸に広まったとされています。年代は明らかではありませんが、元禄以降のことと推定されていて、もともとは「そば湯」ではなく「ぬき湯」と呼ばれていたといわれています。元禄10年(1697年)刊の『本朝食鑑』は早くもそば湯を取り上げ、そばを食べた後にこの湯を飲まないと必ず病にかかる、とも解釈される内容のことが書かれていました。

 そばは栄養価の高い優れた食品で、その茹で湯であるそば湯には、栄養成分の一部が溶け込んでいます。もちろん、『本朝食鑑』の記述は多分に迷信的ではありますが、現代栄養学を知らなかった昔の人が、そばを食べた後でそば湯を忘れずに飲むことをすすめたのは、そば湯が栄養に富んでいることを、経験的に認識していたからなのかもしれません。

 そばに含まれる栄養成分のうち、米や小麦など他の穀類に比べて特徴的なのは、たんぱく質とビタミン(とくにB1およびルチン)です。よく知られているように、ビタミンB1の欠乏症は脚気であり、ルチンは毛細血管の強化や血圧の降下などに効果があります。
 これらの栄養成分の大半は水溶性なので、そばを茹でている間に、その一部が茹で湯の中に溶け出してしまいます。当然のことに、そばに付着している打ち粉も、茹で湯に溶けています。そば湯を飲んだほうがよいというのは、そのためです。

 また、そばのたんぱく質は旨み成分でもあるので、栄養面ばかりでなく、そばを余すところなく味わうという意味でも、そば湯は飲んだほうがよいということになります。

 しかし、最近の研究では、これらの栄養成分は、意外とそば湯の中に溶け出していないことが明らかになってきました。とくにルチンは水に溶けにくく、その流出はせいぜい数%程度といわれています。しかもルチンは、そば紛わずか30〜50gで成人の1日当たりの必要量を摂取できるほど含まれています。

 また、ビタミンB1は、「そばがき」や生粉打ちそばのように、そば粉100%の形で食べる場合、100gで必要量の40%近くをまかなえますが、現代の食生活を考えれば、B1の補給源はいくらでもあるわけで、そば湯の中に流出した分を惜しむ必要はない、ということになります。

 そのため、そば湯だけを飲むのならよいが、つゆを加えて飲む場合、むしろ塩分の過剰摂取が問題になるという指摘も出ています。したがって、栄養面から見ると、そば湯は栄養素の補給源というより、あくまでそばの風味を味わうもの、という考え方になってきているのかもしれません。

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