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ダッタンそば(苦そば)と普通のそば

 栽培種としてのソバは「普通ソバ(普通種)」と「ダッタンソバ(ダッタン種)」に大別されます。
通常、ソバという時は普通ソバを指します。ダッタンソバが普通ソバと大きく異なる点は、苦み成分の含有量が極めて多いことです。

 普通ソバにも微量の苦み成分が含まれていますが、食味としてマイナスになるほどではありません。
しかし、ダッタンソバの持つ独特の苦みは非常に強烈です。そのため、わが国では古来「苦蕎麦(にがそば)」と呼ばれ、食用には適さないものとみなされてきました。

 ダッタンソバのそば粉と普通のそば粉(挽きぐるみ)の栄養成分を比較してみると、ルチン以外について大きな違いは見られません。普通そば粉に比べて、たんぱく質がやや少なく、炭水化物がやや多い程度で、カロリー(エネルギー)もほぼ同じです。極端に違うのはルチン含有量です。分析法によって若干異なりますが、ダッタンそば粉には、普通そば粉の約100倍ものルチンが含まれています。マグネシウム、カリウム、鉄といったミネラルも豊富に含まれています。

 ダッタンソバには強烈な苦みがあります。その苦みの元は、ルチンが分解されてできるケルセチンという物質であると考えられています。普通そば粉にもダッタンそば粉にも、ルチンを分解する酵素が含まれていますが、その酵素は加水によって活性化します。普通そば粉の場合、酵素の活性は大変緩やかであり、ルチンはほとんど分解されずに残ります。つまり、苦みの元であるケルセチンはほとんど生成されないため、食味を損なうような苦みはありません。

 ダッタンソバの場合、ルチンは加水によって急速に分解され、大部分がケルセチンになってしまいます。そのルチン分解活性を普通そば粉と比較した実験では、普通そば粉の約680倍という強い活性が認められたといいます。
普通そば粉の100倍もの高濃度のルチンを含み、さらに分解酵素の活性も強力なので、苦くて当然です。

 ただ、食味の問題はともかくとしても、加水によってルチンがこのように急速に、かつ大量に分解されてしまうのでは、ダッタンソバのルチン供給源としての意味合いが薄れてしまうことになります。
 しかし、このルチン分解酵素の活性は、加熱処理などの安全性の高い処理によって、ほぼ100%近く抑えられることが分かっています。

 また、毛細血管のモデルを使い、血液の粘弾性(血液のドロドロ度、サラサラ度)を調べた研究により、ダッタンソバの生体への新たな機能性も明らかにされています。
苦みを除去したダッタンそば麺を食べた時の、血流速度の変化を調べたもので、食後に測った毛細血管の通過時間は、被験者全員が、食べる前に比べて確実に改善されていました。

 わが国では、ダッタンソバは「苦ソバ」といわれ、ソバといえば普通ソバというイメージが定着しています。
最近でこそ話題にされるようになったものの、一般には意外と知られていませんでした。

しかし、海外では普通ソバだけでなく、ダッタンソバも食用として広く利用されています。主な栽培地域は、シベリアを中心とするロシア、中国東北部および南部、韓国、北朝鮮、モンゴル、インド、ヒマラヤならびにインド周辺諸国(ネパール、ブータンなど)、東欧諸国、カナダおよびアメリカ北部などで、食用以外にも飼料用として、古くから栽培されていました。

 従来、普通ソバの原産地は寒帯地域を除く東アジアの北部、とくにアムール川(黒竜江)の上流沿岸から中国東北区、中央アジアのダウリア、そしてバイカル潮にわたる地域とされてきたが、現在では、中国雲南省を発祥地とする説が有力です。
 ダッタンソバについては、モンゴルを原産地とする説も唱えられたが、現在では、普通ソバとおおむね一致するのではないかと考えられています。







 なお、普通ソバの学名(Fagopyrum esculentumファゴピルム・エスクレンツム)は、食用のブナの実に似た穀物という意味ですが、たしかに、普通ソバの三角稜形の実は、ブナの実の形とよく似ています。
 一方、ダッタンソバの実には丸みのあるものから長粒状のものまで、いろいろな形のものがあり、いずれも稜があまり発達せず、むしろ小麦の種実に似ているものが多いです。実も普通ソバに比べると、かなり小さくなっています。

 ダッタンソバの学名はファゴピルム・タータリクム(Fagopyrum tataricum)。「タータリクム」とは「ダッタン地方の」とか「中央アジアの」といった意味で、その中国での表記が「韃靼(だったん)」だったことからダッタンソバと呼ばれるようになりました。「韃」はムチ、「靼」はなめし革の意味で、騎馬民族を表わしています。ここでいう騎馬民族とは、モンゴル族のことです。モンゴル原産地説もそこから出たものといわれています。

 また、普通ソバは昆虫や風の媒介が必要な他家受粉なのに対し、ダッタンソバは自家受粉です。遺伝子の型が、普通ソバは2倍体であるのに体し、ダッタンソバは4倍体です。花の色も普通ソバは白ですが、ダッタンソバは淡緑色など、さまざまな点で異なっていますが、葉の形と色は同じです。
 ダッタンソバは黄色の色素が強く、茹でると鮮やかな黄色になります。そのため、薬効成分ばかりでなく、変わりそばのように視覚的に楽しめる要素もあります。

 中国では以前から、乾麺や即席麺、そば茶、パンなどのほか、味噌や醤油、食用酢、酒といった発酵・醸造食品や医薬品などにダッタンソバが利用されています。
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