ソバや米は粒でも食べられるのに、小麦はなどうして粉食なのか?

 ソバの食べ方には、粒食(そば米)と粉食(そば粉)とがあります。粒食はソバの実をそのままの形で食べるもので、ソバ食の最も憤始的な形態といえます。
その後、挽き臼が普及して粉食の原型(そばがき)となり、16世紀の後半頃、粉食の到達点であるそば切りに発展してきたと考えられています。

 玄ソバから殻を取り除いたソバの実を「むきそば」といいます。
「そば米」とは、その「むきそば」を加工して食べやすくしたものですが、「そば米」のことを「むきそば」と呼ぶこともあります。
「米」とはいっても、べたつかずつるつるした食感があり、ほのかにそばの香りがします。

 伝統的な「そば米」は、玄ソバを水から煮て作ります。玄ソバの殻の口が開く頃合いを見計らって塩を加え、取り出してムシロに広げて干します。
これを充分に乾燥させた後、ソバの実の稜(面体の角)を崩さないように注意して殻をはずす、という手順を踏みます。塩加減と乾燥の度合いに秘訣があるといわれています。

 現在の「そば米」の大半は工業的に生産されているものですが、ソバの実を丸ごと利用するものだけに栄養価は高く、加工中に失われる成分も多少はあるものの、各栄養成分の含有量は、標準的なそば粉である二番粉とほとんど変わりません。

 昔は、この「そば米」を米、アワ、キビ、ヒエなどと混ぜて食べることが多かったようですが、雑炊や吸い物も作られています。
現在は、雑炊やお茶漬け風に仕立てるほか、「そば米」だけか、あるいは米を何割か混ぜて炊くそば飯なども、そば料理として用いられています。

 ソバは古くから世界各国で栽培されており、粒食の文化を持つのはわが国だけではありません。
「そば米」雑炊と同様の食べ方であるそば粥(ロシア語で「カーシヤ」)は、ロシアから東欧諸国を中心に普及しており、塩味だけのもの、ミルクやバター、サワークリームを添えたものなど、いろいろなバリエーションが見られます。

 一方、小麦は、原産地とされる西アジアやエジプト、西欧の歴史を見れば明らかなように、古代以前から何千年にもわたって、粉として利用されてきました。
その理由として、次のようなことが挙げられます。

 まず、小麦は、穀物としての実の構造と性質が、製粉、つまり粉食に向いていたといわれています。
 たとえば米の場合、外皮(籾)、内皮(糠)とも剥離しやすく、胚乳部は硬いです。
そのため、粗を取り除き、糠の部分を擦り合わせて削り取るだけで食用とすることができます。
つまり、米はわざわざ粉にする必要がないわけです。

 これに対して小麦の場合は、外皮は厚く強靱で(粒全体の約13%)、胚乳部は柔らかです。
しかも、胚乳部は外皮にぴったりと密着していて、簡単には分離できません。
したがって、小麦の場合は粒のまま砕いて粉にして、その後、皮を分離するほうが、胚乳部の利用方法として合理的といえます。
現代の製粉技術でも、胚乳部と皮とを完全に分離することはできません。

 また、小麦粒には「粒溝(しわ)」と呼ばれる深い溝が縦についていますが、この部分の皮は、外側から削る方法で取り除くのは大変むずかしいのです。
やはり粉にしてしまってから篩分けたほうが理にかなっています。
さらに、小麦は皮のついた粒のまま炊飯しても、けっしておいしいものではない上に、消化率も悪くなります。

 ところで、たんに栄養面から見れば、小麦の粉食はマイナスです。
なぜなら、最も豊富に栄養素(脂質、ミネラル、ビタミン)を含む胚芽部分を除去してしまうからです。
小麦の胚芽は、米と同様に粒の外側に付着する形でついているため、剥離しやすい構造です。
 胚芽を除去して製粉するのには理由があります。胚芽と皮に多く含まれる脂質は粉の変質(主として脂質の酸化)を促し、長期保存をむずかしくしてしまうからです。
そのため製粉工場では、胚芽と皮ができるだけ混ざらないように、さまざまな工夫を凝らしています。

 しかし、小麦は粉食することによって、その最大の特徴を余すところなく発揮することになりました。
穀物の中で小麦だけに特有の、グルテンの活用です。
 小麦のたんぱく質は、粒のままではグルテンを形成しません。
したがって、小麦粉の特性を生かすためには、どうしても製粉しなければならないのです。

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